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    AIエージェントが変える金融業務

    公開日: 2025年8月1日

    更新日: 2026年2月20日

    AIエージェントが変える金融業務

    このページでわかること

    • 金融業界におけるAIエージェントの具体的な導入事例と成果
    • 稟議・営業・コールセンターなど業務別の活用パターン
    • 自社に導入する際のステップと設計上の注意点

    金融業界で進むAIエージェント活用

    AIエージェントの活用は、金融業界においても本格的な実装フェーズに入り始めています。チャットボットやRPAでは対応しきれなかった稟議書の作成、議事録の要約、社内ナレッジの検索など、柔軟な判断を要する業務領域で導入が進んでいます。

    特徴的なのは、単なる文書生成にとどまらず、CRMや社内DBとの連携を通じて、「情報の収集」「要約」「記録」「提案」までを一連のフローとして担う設計が増えている点です。多くの企業がPoCでの検証を終え、効果の見えた領域から段階的に適用範囲を広げ始めています。

    業務タイプ別に見る:成功するAIエージェントの現場解

    【タイプ①】ナレッジ検索型:現場の「探す時間」を消す

    モルガン・スタンレー(米)

    社内文書10万件超を横断検索できるAIアシスタントを、ファイナンシャルアドバイザー向けに展開。2024年時点でユーザーの98%以上が日常的に活用しており、顧客対応に必要な情報の取得や確認がスムーズに行えるようになっています。

    さらに、面談内容を自動で要約し、CRMに記録し、フォローメールの下書きまで生成する「Debrief」機能を追加。これにより、面談後の対応時間は“数日から数時間”に短縮され、対応スピードと情報の一貫性が大きく改善されました。

    設計の工夫

    ユーザーがプロンプトを入力して操作するのではなく、日常業務で使っているアプリケーションの裏側でAIが自動的に処理を進める設計となっています。

    たとえば、面談終了後には録音データが自動で文字起こしされ、内容の要点を抽出したうえで議事録が作成され、CRMに反映されます。
    「操作するAI」ではなく、「意識せずに使えているAI」として定着したことが、活用率の高さにつながっています。

    関連記事
    【OpenAI公式】Morgan Stanley、GPT-4活用のAIエージェントを本格導入
    https://openai.com/index/morgan-stanley/

    【タイプ②】書類作成・要約型:稟議・議事録・提案書をAIに任せる

    三菱UFJ銀行(日本)

    2025年、三菱UFJ銀行は生成AIスタートアップのSakana AIと提携し、社内文書の作成を支援するAIエージェントの開発に着手しました。

    対象となるのは、稟議書や申請書といった「形式は決まっているが、内容の検討や要約を伴う文書」です。

    これらは従来、一定のスキルや知識が求められる業務であり、属人性や作成負荷が課題となっていました。

    同行では今後3年間で最大50億円を投資し、まずはパイロットとして社内限定の導入を進めています。具体的には、担当者が入力した要点に基づいて、AIが稟議書のドラフトを生成し、それを人が確認・修正して提出するという運用モデルです。

    業務の中に無理なく入り込む形で、定着を目指しています。

    設計の工夫

    この取り組みでは、文書のフォーマットや提出ルールに合わせてAIの出力がチューニングされています。

    たとえば、対象部署ごとの文書トーンや構成順も学習させており、作成者の修正工数を最小限に抑える工夫がなされています。

    また、出力結果に対して人が最終チェックを行う運用となっており、法務やコンプライアンスの観点からも安心して活用できる仕組みとなっています。

    関連記事
    【朝日新聞デジタル】三菱UFJ銀、生成AI開発でスタートアップと提携
    https://www.asahi.com/articles/ASS546R2HS54ULFA00J.html

    【タイプ③】営業支援型:誰もが“最適な提案”にたどり着ける

    明治安田生命(日本)

    明治安田生命では、全国の営業職員約3万6000人に向けて、提案支援用のAIエージェント「MYパレット」を展開しています。顧客の年齢やライフイベント、過去の契約履歴、健康診断結果などの情報をもとに、営業担当者がどの商品を、どのような切り口で提案すべきかをリアルタイムでアドバイスする仕組みです。

    従来、営業活動は担当者の経験や勘に頼る部分が大きく、若手とベテランの間で提案の質や成果に差が生まれやすいという課題がありました。

    MYパレット導入後は、特に若手層の成約率が顕著に向上し、全体としては25%の提案成約率向上が報告されており、組織全体で「誰でも一定水準の提案ができる」状態が近づいています。

    設計の工夫

    MYパレットは、営業担当者の情報入力を必要とせず、自動で社内システムから顧客データを取得・分析して提案を提示する構造になっています。

    表示されるのは「売れる商品」ではなく、「この人になぜこれを薦めるか」という背景付きの提案であり、営業担当者が納得して使える説明性が確保されています。

    また、トークスクリプトの提示や、地域ごとの特性に合わせた表現の最適化など、現場がそのまま使える工夫が随所に組み込まれています。

    関連記事
    【Impress】明治安田生命、営業職向け生成AI「MYパレット」導入
    https://dcross.impress.co.jp/docs/usecase/003916.html

    【タイプ④】社内問い合わせ対応型:社内ナレッジと手続きの“第一窓口”として

    SBI生命保険(日本)

    SBI生命では、社内問い合わせ対応の効率化を目的に、ITヘルプデスク向けのAIエージェントを導入しました。

    具体的には、パスワードの再設定方法や社内システムの操作手順といった定型的な問い合わせを、AIが一次対応する仕組みです。

    さらに、複数のAIモデルを業務内容に応じて使い分ける構成を取り入れ、例えばFAQ対応にはGPT-4o、社内システム関連の対応にはClaude 3を適用するなど、処理内容に応じた最適化が進められています。

    導入後、パスワードロック解除にかかる時間は約1時間から13分へと短縮。その他の業務でも処理時間が軒並み90%以上削減され、IT部門全体の対応負荷が大きく軽減されました。

    設計の工夫

    問い合わせエージェントは、ただ質問に答えるだけでなく、社内ポータルや手続きフローとも連携して、実際の処理を“代行する”構成になっています。

    ユーザーが「〜の申請方法を教えて」と入力すると、マニュアルを提示するだけでなく、必要な申請フォームへのリンクや手続きガイドまで自動で提供されます。

    また、モデルごとの強みを活かすために、用途に応じた出力品質や処理スピードの検証を繰り返しながら、最適な組み合わせを現場レベルで調整しています。

    関連記事
    【AI経営総研】SBI生命、社内問い合わせ対応にAIエージェントを導入
    https://ainei.biz/cases/sbi-insurance/

    【タイプ⑤】コールセンター支援型:非対面業務の“初動対応”を支える

    三井住友海上火災保険(日本)

    三井住友海上では、自動車保険の事故対応を対象に、生成AIを活用した音声対応型エージェントを導入しています。コールセンターの混雑や夜間・災害時の対応遅れを解消するため、事故受付の一次対応をAIが担う仕組みを整備しました。

    音声ボットは24時間365日対応可能で、顧客が電話で話す内容を自動でテキスト化し、必要情報を整理して次の対応部門へ引き継ぎます。

    特に災害時や深夜帯での対応スピードが大幅に向上し、初動の迅速化によって顧客満足度の向上にもつながっています。

    設計の工夫

    従来のボイスボットは、決められた選択肢を読み上げる方式が中心でしたが、同社のAIエージェントは、自然言語での発話をそのまま処理できる構成となっています。

    事故内容に応じて、関連する書類の案内や次の手続きに必要な行動を動的に提示し、スムーズな対応につなげています。

    また、全通話データを自動で記録・要約する機能も備えており、事後の対応精度や業務モニタリングにも活用されています。

    関連記事
    【AI経営総研】三井住友海上、事故受付に音声AIエージェントを導入
    https://ainei.biz/cases/ms-insurance/

    自社に落とし込む:3ステップで始める導入設計

    AIエージェントの活用は、他社事例を眺めるだけでは前に進みません。成果が出ている企業は、最初から完璧な設計を目指すのではなく、「小さく試す」「合う領域を見極める」「使いながら育てる」というステップを踏んでいます。ここでは、自社での導入検討を進める際に押さえるべき3つの観点を紹介します。

    1.業務タイプを決める

    まずは、どの業務に適用するのかを明確にします。
    過去の事例から見えてきたように、AIエージェントが特に力を発揮するのは、次のような業務です。

    • 情報を集めて整理し、判断やアウトプットを求められる業務(例:稟議作成、提案文書)
    • 手順が固定されておらず、現場判断や柔軟な対応が求められる業務(例:営業支援、ナレッジ検索)
    • 情報が分散しており、検索や記録が煩雑な業務(例:議事録作成、事故対応)

    逆に、完全に定型化された入力作業や単一ルールで処理できる業務は、RPAやSaaSの方が適しているケースもあります。最初の判断は、「AIにやらせる」ではなく「AIが力を発揮しやすい業務を選ぶ」視点が重要です。

    2. 使う人を決める

    業務が決まったら、次は「誰が使うのか」を明確にします。
    同じエージェントでも、利用者が異なればUIや運用設計も大きく変わります。

    • 情報システム部門が使うナレッジエージェントであれば、検索性やドキュメント構造の最適化が重要
    • 営業担当者が使う提案支援エージェントであれば、直感的な操作や提案の説明性が問われる
    • コールセンターで使う場合は、対応スピードや引き継ぎの滑らかさが重視される

    実際に触る人のリテラシーや業務習慣を前提に、「どうすれば現場に馴染むか」を設計に反映させることが、定着の成否を大きく左右します。

    3. PoCの評価軸を決める

    PoC(概念実証)は、「うまくいきそうか」を測るための機会です。ただし、目的や評価基準が曖昧なまま始めると、「結局よくわからないまま終わった」という結果にもなりかねません。

    評価軸は、数値で追えるものと、定性的な手応えの両方をセットにするのが理想です。

    • 工数削減率(例:作業時間が○%短縮されたか)
    • ユーザーの満足度(例:「自分の仕事が楽になった」と感じたか)
    • 活用回数・継続率(例:1週間で何人が何回使ったか)

    短期間でも、何をもって「試す意味があった」と言えるかを明確にしながら進めることで、PoCが単なる“お試し”で終わらず、次の判断材料になります。

    導入設計のリアル:柔軟性とガバナンスを両立させる条件

    AIエージェントは「導入して終わり」ではなく、使われ続ける仕組みとして根づくかどうかが鍵になります。特に、セキュリティや法令対応が求められる金融業界では、技術的な選定だけでなく、運用・管理・説明責任までを含めた“設計のリアル”が問われます。

    クローズド環境と分離設計

    多くの金融機関では、AIエージェントを社内専用環境(オンプレミスや閉域クラウド)で運用する設計が取られています。三井住友フィナンシャルグループでは、Azure OpenAI Service上に構築された専用環境で、従業員だけが利用可能なチャットアシスタント「SMBC-GPT」の実証を行っています。

    文章作成やコード生成など幅広い用途を想定しながらも、社外との通信を制限し、内部情報の流出リスクを排除する設計が評価されています。

    人間による最終承認と役割分担

    生成AIが業務の一部を代替するとはいえ、「すべてを任せきる」構造は現実的ではありません。

    モルガン・スタンレーでは、議事録作成からフォローアップメールの下書きまでをAIが担う一方で、人間による最終チェックと送信承認が明確に設けられています。

    特に顧客接点や意思決定が絡む業務では、AIと人の役割分担を明文化しておくことが、現場の安心感にもつながっています。

    出力の根拠提示と記録性

    社内文書や稟議、対外説明資料などでAIを活用する場合、「なぜその出力に至ったのか」を説明できる設計が必要です。

    住友生命では、ChatGPTベースの社内AIアシスタントを活用しながら、出力に対する参照元や社内ルールとの対応関係をログとして記録しています。結果として、法務や監査部門とも連携しやすい運用体制が整備され、全社展開に向けた基盤が築かれています。

    ガバナンスを支える“現場主導”の体制

    AIエージェントの運用では、「ガバナンスの厳格さ」と「現場の柔軟な改善サイクル」が両立する設計が不可欠です。

    SBI生命やソフトバンクでは、AI活用における権限設定やログ管理を標準化しつつ、業務部門がモデルやプロンプトの修正を継続的に行えるような開発体制を取っています。
    IT部門の主導ではなく、現場に近いチームが改善を繰り返せることが、継続的な定着と実用性の向上を支えています。

    【まとめ】実装の成否を分けるのは“設計”よりも“接地”

    AIエージェントは、単なる自動化ツールではありません。業務に入り込み、現場の判断や行動を代行する存在として機能するからこそ、導入のハードルも、得られる価値も大きくなります。

    本記事で紹介した金融業界の事例に共通するのは、いずれも「現場で使われる構造」を細かく設計し、それを無理なく業務フローに組み込んでいた点です。PoCから本番展開への移行に成功している企業ほど、最初から完璧な設計を目指すのではなく、使いながら調整する「接地型」の導入アプローチを取っています。

    ポイントは、大きく3つに整理できます。

    • 業務を選ぶ視点
       → 手順が決まっている業務ではなく、判断や例外対応を含む「人間の考える余白」がある業務に適用する
    • 定着のための工夫
       → UIを馴染ませる、プロンプトを隠す、判断根拠を示すなど、「使いやすさ」に本気で取り組む
    • ガバナンスと改善の両立
       → セキュリティや監査要件を守りながら、現場が自ら改善・学習できる設計を支える

    いま、AIエージェントの活用は「一部の先進企業だけの話」ではなくなりつつあります。業務にフィットする活用方法が各社で見え始めた今こそ、自社にとっての“最初の一歩”をどこに置くかを見極めるタイミングです。

    小さく試す、使いながら育てる。そして、現場に残る。

    そんなリアルな導入戦略が、AIエージェントを“使える”存在に変えていきます。

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