
この記事でわかること
- 生成AIによる業務改善が、従来の効率化とどう違うのか
- 属人化や承認業務の削減など、改善が進んでいる具体的な領域と事例
- 改善を成功に導くために現場マネージャーが担うべき役割と着眼点
効率化と業務改善はどう違うのか
生成AIを使った業務改善は、従来の効率化と目的が異なります。効率化は既存の業務フローを変えずに処理速度やコストを削減することを指し、議事録の自動要約や定型文書の作成支援が典型です。
一方で業務改善は、フローそのものを見直し、付加価値を高める取り組みです。生成AIは文脈理解や意思決定支援に強みを持ち、従来のRPAでは難しかった「仕事のやり方そのもの」を変えることが可能です。
たとえばソフトバンクでは、営業活動の一部をAIエージェントに担わせる取り組みを進めています。従来は担当者の経験や属人的な判断に依存していた提案準備や問い合わせ対応を、AIが下支えする仕組みに変えたことで、情報収集から資料作成までの流れが標準化されました。
これにより、提案のスピードと品質が均一化し、属人化を解消しながら全社的に改善サイクルを回せるようになっています。
生成AIによる業務改善の方向性
従来の効率化では扱えなかった領域に、生成AIは力を発揮します。人の判断や知識に依存していた作業を置き換えたり、曖昧な意思決定を可視化したりすることで、現場のフローそのものを変えることが可能になります。
とくに注目すべきは、属人化の解消や承認作業の削減といった「人が長年抱えてきた負荷の大きい領域」です。
ここからは、生成AIを活用することで特に改善が期待できる領域──属人化の解消、承認作業の削減、意思決定の可視化などに注目していきます。
属人化や承認業務をどう変えるのか

属人化の解消
経験豊富な社員に依存していたノウハウをAIに学習させることで、誰でも一定の品質で業務を遂行できるようになります。明治安田生命は、営業職全員が利用できるAIを導入し、ベテラン社員の提案スキルを全社に共有できる体制を整えています。
承認業務の削減・意思決定の可視化
承認業務や意思決定は、従来から現場の大きな負担となってきました。承認フローは担当者が逐一チェックを行うために時間がかかり、意思決定は根拠が属人的に蓄積されるためチームで共有しづらいという課題があります。生成AIはこの領域に大きな効果を発揮します。AIが一次レビューや根拠整理を担うことで、人は最終判断や重要な検証に集中でき、判断のスピードと質を両立できるようになるのです。
損保ジャパンは社内照会対応に生成AIを活用し、回答作成にかかる時間を約4割削減しました。人は最終確認に集中できるようになり、確認業務の質とスピードが同時に改善されています。
またMorganStanleyでは、営業面談の記録をAIで整理し、CRMに即時反映する仕組みを整備しました。担当者の経験則に依存していた判断の根拠が共有され、改善サイクルを高速に回せるようになっています。
さらに三井住友フィナンシャルグループでは、社員が日常業務の中でAIを使い、反復的に改善アイデアを試せる環境を整備。改善活動が一部部署に留まらず、組織全体に広がる基盤となっています。
業務改善を根付かせるには反復的アプローチが欠かせない理由
生成AIは進化が速く、3か月前の仕様が陳腐化していることも珍しくありません。従来の「要件定義→開発→テスト」といった直線的な導入では、変化に対応できないのです。
そこで必要なのが、小さく試し、成果を確認し、改善を繰り返す反復的アプローチです。Citiはリスク管理やコンプライアンス文書の要約をまず一部で試し、成果を確認してから段階的に展開しました。生成AIを業務改善に活かすには、この「小さく始めて広げる」考え方が欠かせません。
現場マネージャーに求められる役割
試行の場づくり
現場マネージャーが最初に担うべきは、部下が安心して試せる場をつくることです。三菱UFJ銀行は、スタートアップと連携して社内稟議作成をAIに任せるパイロットを短期間で実施しました。こうした小さな実験を許容することで、現場は早期に学びを得られます。
KPI設計と成功体験の共有
改善効果を数値で把握するために、処理時間の削減率やエラー率の低下といったKPIを設けることも重要です。小さな改善で得られた成果をチーム全体で共有し、文化として定着させるのもマネージャーの役割です。
さらに、経営層と現場の橋渡しを行い、トップダウンの方針と現場の実装ニーズを調整することも欠かせません。
業務改善はあらゆる業務に当てはまるわけではありません。生成AIが力を発揮するのは「人の判断に依存している」「情報整理や確認に時間がかかる」といった領域です。一方で、単純作業やルールが明確な処理は従来の自動化の方が適している場合もあります。
そのため、改善対象を選ぶ際には次の観点を確認しておくことが重要です。
- 対象業務は属人化や多重チェックに依存していないか
- 単なる効率化ではなく、プロセス改善につながるか
- 成果を定量化できるKPIを設定しているか
- 小規模な試行から横展開への仕組みを設計しているか
業務改善を支援する企業の取り組み事例

生成AIを活用した業務改善は、導入企業だけでなく支援するプレイヤーの取り組みによっても大きな進展を遂げています。ここでは代表的な5社を紹介します。
Accenture
明治安田生命と共同で営業支援AI「MYパレット」を構築。数万人規模の営業現場で属人化していた提案ノウハウを短期間で全社展開可能にした。
リコー
損保ジャパンと共同で保険業務特化の生成AI「おしそんLLM」を開発。照会対応を効率化しつつ、人が最終確認できる仕組みで安全性も確保した。
OpenAI
MorganStanleyに専用GPT環境を提供。営業面談の議事録化や意思決定プロセスの可視化を支援し、数日かかっていたフォロー作業を数時間に短縮した。
GenerativeX
日本企業の業務改善を支援するスタートアップ。財務分析やマネジメント業務を生成AIで再設計し、改善サイクルを現場に根付かせる取り組みを展開。属人化の解消とアジャイル型導入に強みを持つ。
BCG(ボストンコンサルティンググループ)
DHLと共同で物流業務に生成AIを導入。提案書作成やデータ整理をAIが担い、改善サイクルを加速させる仕組みをグローバルで展開している。
【まとめ】現場に根付く業務改善の条件
生成AIを活用した業務改善は、単なる効率化ではなく、業務フローや意思決定の質を変える取り組みです。現場マネージャーは属人化解消や承認業務削減といった実務的テーマから着手し、反復的に改善サイクルを回すことで、チーム全体に変革を浸透させていくことができます。
改善を支援する外部プレイヤーや社内の推進組織と連携することで、現場での取り組みはより早く、より確実に成果へとつながります。こうした積み重ねが、組織全体の競争力を引き上げる大きな原動力となるのです。
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【朝日新聞デジタル】GenerativeX、大企業の属人化業務を生成AIで再設計 改善から変革へ
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